「百人斬り」東京地裁判決(部分-064)

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《裁判所判断:日日記事が虚偽であることが明らかになったとまでいえない。また、除斥期間がすでに経過しており請求権は失われている》
  1. 争点(5)及び(7)について
    • (1) 

      原告らは,被告毎日において,本件日日記事が虚報であることが明らかになったにもかかわらず,これを訂正しないという不作為により,両少尉の名誉を侵害し,また,原告らの両少尉に対する敬愛追慕の情を違法に侵害した旨主張する。

      しかしながら,前記2(4)ウ(ア)(*)で検討したところによれば,現時点において,本件日日記事が虚偽であることが明らかになったとまで認めることはできないというべきである。 したがって,その余の点について検討するまでもなく,原告らの上記主張に理由はなく,被告毎日に対する請求は認められないというべきである。

    • (2) 

      さらに,付言すると,前記争いのない事実等によれば,本件日日記事は昭和12年11月30日から同年12月13日までの間,4回掲載されたものであって,本訴提起の時点である平成15年4月28日において,60年余を経過していることが認められ,本件においては,民法724条後段の除斥期間が経過しているという点においても,原告らの被告毎日に対する請求は理由がないというべきである。

      この点,原告らは,被告毎日において,本件日日記事が虚報であり,それを訂正しなかったことによって両少尉が軍事裁判で銃殺刑に処せられたという先行行為が存在していたにもかかわらず,被告本多が「百人斬り競争」の記事を掲載して以降,現在に至るまで,自社の虚報を正さず,放置し続けており,かかる不作為によって,本件各書籍を始め,「百人斬り競争」を事実とする多数の書籍により,両少尉及び原告らに対する名誉毀損状態が生じているとし,本件日日記事の発行自体を問題としているのではないとして,被告毎日による不作為の違法行為が現在まで継続している旨主張する。

      確かに,作為の不法行為が継続して行われ,そのために損害も継続して発生する場合であれば,損害が継続発生する限り日々新しい不法行為に基づく損害として,各損害を知ったときから別個に消滅時効が進行することとの均衡上,日々新しい不法行為の各時点から,民法724条後段の除斥期間も進行するものと解される。しかしながら,先行する特定の作為が違法であることを前提として,その違法状態を是正しないことをもって不法行為の内容とする不作為の継続的不法行為についても,これと同様に解するとなると,実質的には先行する作為の違法行為を主張しているものと解されるにもかかわらず,請求者において不作為の継続的不法行為という形式を採りさえすれば,民法724条後段の除斥期間が及ばないこととなり,不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の趣旨を没却することとなる。

      それゆえ,不作為の継続的不法行為であっても,先行する特定の作為が違法であることを前提として,その違法状態を是正しないことをもって不法行為の内容とする場合には,先行する特定の作為が違法であるとされて初めて不法行為の要件を充足するものであるから,これを実質的にみれば,先行する特定の作為の違法を理由とする作為の主張を含むものとみざるを得ないのであって,この場合,当該作為の終了した日をもって同条後段の除斥期間の起算点と解するのが相当である。

      本件についてこれをみるに,原告ら主張に係る不作為の継続的不法行為は,被告毎日による本件日日記事の発表を先行行為としている上,本件日日記事が虚報であり,当時においても,被告毎日において虚報を報道したこと自体を違法行為であるとし,先行する作為が違法であることを前提として,その違法状態を是正しないことをもって不法行為の内容としているものと認められるから,当該作為である本件日日記事の発表が終了した日をもって同条後段の除斥期間の起算点とすべきである。そして,本件日日記事の発表は,遅くとも昭和12年12月13日に終了しているから,同日から20年をはるかに超えた本訴提起の時点においては,同条後段の除斥期間を経過したものであると認められる。

    • (3) 

      したがって,仮に,原告らの被告毎日に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が存在していたとしても,同請求権は,除斥期間を経過したことによって消滅したものと認められる。

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