1. はじめに

1.1 これまでの経緯

 茨城県神栖町の集合住宅の居住者が、原因不明の神経症状等を訴え通院するなどしていました。平成 15年 3 月、数家族で同様の症状が出ているなど集中して発生していることを不審に思った筑波大の医師から地元保健所に井戸水の水質検査の依頼があり、飲用井戸(A 井戸)を調査したところ、環境基準の 450 倍という極めて高濃度のヒ素が検出されました。また、A 井戸の西方約 1Km に位置する B 地区においても井戸水から環境基準の 43 倍の濃度のヒ素が検出されました。このヒ素化合物は、通常自然界には存在しない、旧軍の化学兵器に使用された物質の分解産物でもある有機ヒ素化合物(ジフェニルアルシン酸)であることが判明しました。  このため、支援策を早急にとりまとめるようにとの内閣官房長官の指示(平成 15 年 5 月 21 日)を受け、2 週間後の 6 月 6 日には神栖町の有機ヒ素化合物汚染等への緊急対応として、健康被害に係る緊急措置とともに有機ヒ素化合物汚染メカニズム解明、昭和 48 年に行われた「旧軍毒ガス弾等の全国調査」のフォローアップ調査の実施などについての閣議了解がなされました。

 これを受け環境省では、茨城県、神栖町等と協力し、汚染メカニズム解明のため、地歴・ジフェニルアルシン酸等の情報収集調査、A 井戸、B 地区を中心としたボーリング調査、地下水・土壌調査、高濃度のジフェニルアルシン酸が検出された A 井戸南東 90m における掘削調査、地下水汚染の広がりを監視するためのモニタリング調査等を行いました。平成 17 年 1 月には掘削調査において、人工的な土地改変がされた埋土層の中から高濃度のジフェニルアルシン酸を含むコンクリート様の塊等が発見されました。また、汚染メカニズム解明に資することを目的として、これらの調査結果を利用した地下水汚染シミュレーションを行いました。

 本報告書では、これまで実施した汚染メカニズム解明のための各調査や地下水汚染シミュレーション等の結果をとりまとめるとともに、それに基づいて A 井戸等の汚染メカニズムについて検討した結果についてとりまとめました。

1.2 調査の流れ
 1) A 井戸周辺

 平成 15 年 5 月末から、高濃度の汚染が認められた A 井戸等を中心に、汚染源の特定に向けてボーリング調査等による絞り込みを行いました。まず、汚染源は A 井戸のごく近傍かつ浅い位置に存在すると想定して、A 井戸を中心とする 10m 四方程度の範囲内(25 地点)においてボーリング調査を行いました(図1.2.2)。その結果、30m 程度の深さからも高濃度のジフェニルアルシン酸が検出され、汚染が予想よりも深く、広い範囲に存在することが示唆されたため、平成 15 年 10 月からは、より広い範囲から汚染源を絞り込む調査を行いました。順次、ボーリング本数を拡充して汚染源の絞り込み調査を進めた結果(図 1.2.3)、平成 16 年 2 月に A 井戸の近傍 10m の 2 地点(自然地層、深さ 25m?30m)と南東 90m の地点(埋土層、深さ 3m?5m)から高濃度のジフェニルアルシン酸が検出されました(図 1.2.4)。このうち、A 井戸から南東 90m の地点は、埋土層で地下水面より上からの検出であり、この周辺において汚染源が埋設されている可能性が考えられるため、3 月にその周辺でメッシュ状にボーリング 76 本を実施し、土壌・地下水の採取を実施しました。その結果、ボーリングNo.123 の地点において、深さ 3.5m の埋土層から、非常に高濃度のジフェニルアルシン酸(1700ppm ヒ素換算濃度)が検出されました(図 1.2.5)。このため、この付近において汚染源が存在している可能性が高いと判断し、No.123 を含む 24m 12m 程度の掘削範囲において、掘削調査をすることとしました。なお、同調査を行うに際しては、毒ガス関連成分が発生する可能性も考えられるため、二重のテントを設置し、テント内を負圧に管理して作業を行うとともに、テント内の空気は排気除染装置を通して浄化し、安全対策には万全を期して、12 月から実施しました(図 1.2.6)。その結果、平成 17 年1月には、埋土層の中から高濃度のジフェニルアルシン酸を含むコンクリート様の塊が発見されました(図 1.2.7)。また、コンクリート様の塊とともに平成 5 年頃を中心とした製造年月日が記された空き缶や下水道管の破片、廃木、金属類等が多数確認されました。

 これと並行して、地下水の流動状況等を把握するため、地下水位測定、1m 深地温探査調査、多点温度検層、揚水試験等を実施し、その結果等をもとに地下水汚染シミュレーション等を行いました。

2) B 地区

 B 地区においても広い範囲から汚染源を絞り込む調査を行ったところ、平成 16 年4月に B 地区の中心から北西方向に 25m 離れたボーリングNo.170(深さ 15m)から B 地区における最高濃度である 0.45ppm のジフェニルアルシン酸が検出され、周辺に向かって濃度が薄くなる分布でした。この結果を受けて、B 地区における汚染源の場所の特定のための追加的なコアボーリング調査を実施することとし、9 月にボーリングNo.170 の周辺 6 カ所において、深さ 15m 程度のコアボーリングを行い、地下水中及び土壌中のジフェニルアルシン酸の分析を行いました。しかしながら、6 カ所のボーリング調査の結果、すべての地下水及び土壌からジフェニルアルシン酸は検出されませんでした。また、8 月に実施した地下水モニタリングの結果によれば、B 地区の中心付近では、総じて濃度が低下する傾向がある一方で、B 地区の東側と西側では濃度が上昇している傾向があり、地下水汚染の位置が変動している可能性が認められました。これらのことから、B 地区においては、引き続き、地下水モニタリングを実施して地下水汚染の状況を把握するとともに、モニタリング結果を時系列的に解析することで汚染の移動状況を把握しつつ、引き続き汚染源の特定に向けた調査を継続することとしました(図 1.2.8)。

3) A、B 間

 A 井戸と B 地区の間に設置した観測孔では、各季において地下水のモニタリングを実施しています。この結果、A、B 間においては、A 井戸から西に向かって B 地区まで低濃度の汚染が細く存在しており、A井戸から離れるほど薄くなっていく傾向があることがわかりました(図 1.2.8)。

4) 汚染の外縁把握

 A・B トラック地区(A 井戸と B 地区それぞれを中心とした半径 500m の円をつなげたトラック状の範囲)の外縁において設置した 17 カ所のモニタリング孔において、各季のモニタリングを実施して、汚染の外縁把握を行っています。平成 17 年 3 月の調査において、B 地区の南西端の1孔から 0.0015mg/gから 0.0027mg/gのジフェニルアルシン酸が検出されたことから、周辺井戸水調査などの所要の対策を行っています(図 1.2.9)。

5) 地下水汚染シミュレーション等

 神栖町における汚染メカニズム解明に資するため、A 井戸等の地下水汚染シミュレーション及び広域地下水シミュレーションを行いました。なお、これらのシミュレーションを実施するにあたり、A 井戸周辺において揚水調査、1m 深地温検査等の各調査を実施するとともに、水文データ等の収集・整理等を行いました。

6) 地歴・ジフェニルアルシン酸等の情報収集

 昭和 48 年の「旧軍毒ガス弾等の全国調査」フォローアップ調査及びその後の追加調査により、国内における旧軍毒ガス弾に係る遺棄、廃棄等の情報やジフェニルアルシン酸に関する情報を収集しました。また、汚染が確認された A 井戸周辺及び B 地区においては、地権者等への聞き取り調査を行い、地歴等の情報を収集しました。

7) 調査のフロー

 これまでに、汚染メカニズム解明のために行ってきた調査・解析のフローを図 1.2.1 に示します。



図 1.2.1 神栖町地下水汚染解明のための調査フロー図



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図1.2.2 A井戸付近の   環境調査ボーリング位置図(調査初期)

図1.2.3 H16.2月期の環境調査ボーリング位置図 ⇒A井戸部拡大




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図1.2.4(1) A井戸周辺の地下水DPAA汚染状況GL-10m(H16.2月期)

図1.2.4(2) A井戸周辺の地下水DPAA汚染状況GL-30m(H16.2月期)

図1.2.5 A南東90m付近の土壌DPAA汚染状況GL-3.5m(濃度単位:ppm)




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図1.2.6 掘削調査の概要図




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図1.2.7 コンクリート様の塊(平成17年1月27日)

図1.2.8(1) B地区DPAA地下水汚染状況地図(既存の環境調査結果)

図1.2.8(2) B地区における汚染源調査結果(土壌調査)

図1.2.9 ABトラック地下水DPAA汚染状況GL-30m




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