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  坪井九馬三『史学研究法』の史料等級分類法 渡辺 2003/12/17 03:16:12  (修正3回)
  なるほど、そうだったのですか	 ゆう 2003/12/17 21:09:45  (修正1回)
   └自由に使ってください 渡辺 2003/12/18 02:18:56 

  坪井九馬三『史学研究法』の史料等級分類法 渡辺 2003/12/17 03:16:12  (修正3回) ツリーへ

坪井九馬三『史学研究法』の史料等級分類法 返事を書く ノートメニュー
渡辺 <oogeblxyju> 2003/12/17 03:16:12 ** この記事は3回修正されてます
ゆうさん投稿の『ラーベ日記は「三等史料」か?』 2003/08/30
http://t-t-japan.com/bbs/article/t/tohoho/6/cieqrf/cieqrf.html
に関連しまして、内藤智秀『史学概論』が言及してる史料分類法について、坪井九馬三(ツボイ クメゾウ)『史学研究法』に記述されている該当箇所をデジタル化しましたので、投稿いたします。
特に、史料の製作場所と等級の関係について疑問をもたれた方が多いと思いますので、史料の製作場所についての記述も引用いたします。

この本の対象が江戸時代以前の歴史であることを考えれば、当時の通信事情から、場所の違いは時間的な遅れや、複数の伝達手段を経由したことを意味し、信頼性が落ちる史料という判断になります。
従って、坪井九馬三氏の等級論を、通信が発達した1930年代に一律に適用することは、明らかに誤りです。

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1) 現在では使われない「こと」という「と」に似た文字は「こと」に変換。
2) 「さん入」の「さん」の文字はフォントになく、表現が難しいので、ひらがなで「さん」とした。

坪井九馬三講述『史学研究法』早稲田大学出版部蔵版、出版年不明

- p.407 -
ロ、史料の製作場所。
 次に製作場所でありまする。 製作場所は勿論史料の證明致しまする一史學
事項の起りましたるそのもとの土地でなくてはなりません。 これは改ためて
申上げるまでもな いことで、場所か遠ざかりますれば、同じ報告でも同じ見聞でも
到達しまするまでに已に日にちがかヽります、日にちがかヽると申すのは取敢
へず印象が變化して居るといふことを意味します。 もつとも場所は懸け離れて
居りましても何か特別の理由によりまして、現在の場所に於て見聞したことと、同
一のことが傳はらねばならん場合がありまする。例へば鎌倉時代におさまして
は京都と鎌倉との関係は非常に繊密でありまして、京都におさまして得ました
印象は、そのまヽ鎌倉に傳はつた筈である。 江戸時代におきましても同様で、江
戸に於て得ました印象その通りが、京都に於て得られた筈である。 しかしこの
場合といへども尠くとも一兩人のあたまを經た印象である、それゆゑにその現
- p.408 -
在の場所に於て自ら見聞致しましたることと多少かはつて居る筈である、やはり
到底現の土地に於て得ましたる印象の價には及びません。 東鑑あたりなどに
書いてありまする京都の出来事をしらべまするには、この邊の注意が甚だ大切[だいじ]
である。
 上に申述べまする理由によりまして、史料の製作場所はその證明しまする史
學事項の起りました現の土地に限るのでありまする。 距離が離れまするだけ
可然程度が落ちて参ります。 極めて僻遠で何等の關係もない場所に於て出來
ました史料などは、これゆゑに史學の眼より見ますれば殆んど以て一顧の價も
ないので、先づ以て無下の雑説と異なるところはないのてあります。

(途中省略)
- p.414 -
 以上申上げる通りの次第であるですからして史料の等級を左の如くに分けま
す。
 一等史料――まづ第一に來まするのは史學事項の起りましたる當時、當地にお
  きましてその擔當主任者が自からつくりましたる史料、たとへば擔當主任者
  の古文書日記の類参謀官の覺書などの類であります。 この類のものを一等
  史料と致します。
 二等史料―― 次には史學事項の起りましたる當時當地に最も近い時代場所、あ
  るひは當地ではあるが時代だけがやヽ隔つて居ると申すやうなる場合に、擔
  當主任者が自からつくりましたる史料、即ち追記の精密のものである、記憶よ
  り證明致す場合である。 普事の覺書記録の類は、その上乗なるもので、この類
  のものでありまする。 古文書といへども、過ぎ去つた事を往々に述べることが
  ありまするが、かやうな場合におきましては、古文書といへどもやはりこの部
- p.415 -
  類にはいるのである。 この類のものを第二等とします。
 三等史料――次にはこの一等と二等の部類のものをつなぎ合はせまして、それ
  に連絡をつけた種類のもの、先づ最も上乗の出來の家譜、傳記、又は覺書などが
  この部類に入ります。 たとへ年代、場所又人物も、まるで變つて居りましても、
  編纂の仕方さへ正確でありまするならば、この部類の史料は、つくることの出來
  るものであるのです。 この部類のものを第三等と致します。
 四等史料――次には、たしかにはわかり兼ねまするが、大體より推しますれば、年
  代といひ場所といひ人物といひ、先つ差支へないやうに思はれるが、とにかく
  この三つのものが餘り明白でないか、あるひはよしやこの三つのものが、よく
  わかるに致しましても、何様古いもので轉々轉寫致しまして、さん入[註1]は澤山には
  いつて居るし、無論脱漏もあらうし たしかかと思ふ部分にも、あるひは轉寫中
  にどんな異同を來したかもわからんといふ様なむつかしい品物があるので
  ある。建築物、地理などは多くこの類でありまして、書籍におきましても多く
  この類ので品がありまする。 確實の記事がその中にあるとは疑ふとは出來ん
- p.416 -
  のでありまするが、さてさん入[註1]の文と原形の文とをはっきり區別することが困難で
  あるために、どれを採用してどれを棄てやうか、取拾に非常に困るのである。
  この部類のものを第四等と致します。
 以上第一等より第四等に至りまするまでの分を總稱致しまして根本史料と申
すのである。我等が用ひまする根本史料と申す言葉は、以上の四等の中に限ると
御心得を願ひたい。 これより以下のものは可燃程度の甚しく落ちるものであり
まして厳密なる史學の上より申すならば、先づ以て参考に過ぎぬものである。 こ
の部類の第一に來まするものを五等史料と致します。
 五等史料――五等史料と致しますのは編纂物の上乗なるものである。 編纂物
  を審査するのは、餘程。むつかしいので編者がどういふ史料を手許に持つて居
  て、どういふ方針によって審査したのであるか、何か政治上とか、あるひは教育
  上とか、あるひはその他のある特別の事情に掣肘せられまして、ある一派の意
  見を強いてあらはさうと致しはせなんだか、そこいらあたりのことを篤と考へ
  ねばならんのである。 こヽに上乗と申した編纂物は、我等の解釈するところ
- p.417 -
  では、かういふことであるのです。 採用して居る史料は根本史料に限る、審査の
  方針は科學的である編纂者の眼中には亳末も偏頗の考がないと申すことなの
  である。 かやうにして出來た編纂物でありまするならば、我等はこれを第五
  等と致します。 しかし實際はこの部類の編纂物は極めて尠うございます。
 等外――この外に尚ありまするのは可然程度の更に落ちまする編纂物、傳説、美
  文、歴史書、その他でありまして、単に史學におきましては、参考のために備へ置
  くと申すだけのものでありまする。 もつとも研究の題目によりましては、こ
  ヽに申す等外の品でさへ、随分重く見なければならんことがあり得るのであり
  まする。殊に當時の社會を實寫致しました芝居、狂言、流行歌、川柳、小説親類は
  一時代の社會をしらべまするには、欠くべからざる證據物となりまする。 か
  やうに社會を實寫いたして居りまする品は、芝居狂言その他のものといへど
  も、もとより必らずしも美文ではありません、往々にして所謂俗文學で、至つて
  野卑のものもございませう、所謂士君子の眼を汚すに近いものもございませ
  う、とにかく社會の寫眞でありまするで、甚だ必要を感ずることがございます。
- p.418 -
  この類の上乗なるものは、一時代の社會の姿を調査致しまする際には、一等史
  料としてあらはれて参ります。 唯困るのは上乗なるものを撰み出しまする
  のに甚だ困難致します、即ち尋常一様の史學の究研には、この種類の史料は先
  づ以て御入用のない方でありまする。
 以上申延べましたところは、史料の等級の大體でありまするが已に申す如くに
證據物件の可燃程度は品によりまして千差萬別でありまするで、何れの証拠物件
も、以上の等級のどれかの中へはっきりはまると申す次第では必らずしもありませ
ん。往々にして一等と二等との間、あるひは三等と四等との間、あるひは五等と等
外の間などのものが出て参ります。此の如き曖昧程度のものヽ起つて來るのは、
すべての類別に於て免れぬ所で、致しかたがないのであります。 次には史料の分
析についてお話致します。

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<引用者註>
註1: さん入=混入の意味

  なるほど、そうだったのですか	 ゆう 2003/12/17 21:09:45  (修正1回) ツリーへ

Re: 坪井九馬三『史学研究法』の史料等級分類法 返事を書く ノートメニュー
ゆう <pmyqfxtjon> 2003/12/17 21:09:45 ** この記事は1回修正されてます
なるほど、そうだったのですか

>この本の対象が江戸時代以前の歴史であることを考えれば、当時の通信事情から、場所の違いは時間的な遅れや、複数の伝達手段を経由したことを意味し、信頼性が落ちる史料という判断になります。


「二等資料」の定義の奇妙さの謎が、やっと解けました。

早速、私のページから、リンクさせていただくことにします。(時間のある週末あたりに作業をしますので、少しお待ち下さい)

   └自由に使ってください 渡辺 2003/12/18 02:18:56  ツリーへ

Re: なるほど、そうだったのですか 返事を書く ノートメニュー
渡辺 <oogeblxyju> 2003/12/18 02:18:56
自由に使ってください

ゆうさん:>
>「二等資料」の定義の奇妙さの謎が、やっと解けました。

と、思いまして投稿しました(^^)
「通信事情」ではなく、「通信・交通事情」とすべきでしょうね。
校正は一応いたしました。
適当にコピペしてください。多分、資料自体がパブリック・ドメインじゃないかと思います。

メールの内容が保存されているファイルがNetscapeの異常動作で消えてしまって、回復作業に時間がかりました。アセアセ...


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