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*********************************** I 「Nature」オンライン版 05.02.02 ***********************************
「日本と朝鮮が拉致を巡って衝突している中、DNAが激しく論じられる」
記者:David
Cyranoski (Published online: 2 February 2005; |
doi:10.1038/433445a) <概訳:まこと>
・火葬された遺骨は1977年に誘拐された少女の運命を証明することができない。
東京−DNAの検査が1977年に誘拐された日本国民の火葬された遺骨かどうかを立証したということに関して、激烈な論争が日本と北朝鮮の間で勃発した。
この論争は数年の間この2か国の関係を気まずくしているエピソードの中では最近起きたねじれ現象である。1970年代から1980年代の間に北朝鮮は少なくとも13人、そしておそらく100名近い数の日本人をスパイ活動計画の中で使うために誘拐したと考えられている。そして今、この2つの国は拉致された人々のある一人の遺骨から正確にDNAを識別することの実現可能性に関して争い合っている。
2002年の秋、北朝鮮は長年の否認に終止符を打ち、武装部隊が13人の日本人を日本や欧州から誘拐したことを認めた。北朝鮮の指導者である金正日はこの誘拐は軍隊によって政府の許可の無い状況で実施されたと主張した。日本は更に二人の誘拐被害者についての証拠があると言い、さらに多くの誘拐の事実があったと考えている。
生存者を解放した北朝鮮への圧力は、その後家族を伴って日本に帰国する5人の誘拐被害者を見る結果となった。北朝鮮が死亡したとしている他の8人の誘拐被害者に関する情報は(日本側に)伝わるのが遅く、彼らのうち数人は未だ生存しているという推測を導くことになった。
昨年11月15日、日本の政府関係者は北朝鮮が1977年に誘拐された横田めぐみ(当時13歳)の火葬された遺骨であると主張するものを持って平壌での会談から帰国した。北朝鮮の報告書によると、横田は北朝鮮国民と結婚したものの、その後精神病院に入院した後に自殺したという。
東京の帝京大学では遺骨の5つの試料による検査では2人の人間からのDNAを見つけた−しかし、それらのうちいずれも横田の両親によって保存されていた(これは日本ではよくあることである)彼女のヘソの緒から得たDNA配列と合致しなかった。これらの結果は昨年12月に北朝鮮に伝えられたが、北朝鮮政府は1月26日に検査結果に「でっち上げ」の烙印を押す声明を出した。
日本外務省の報道官である高島肇久によると、北朝鮮は検査で使われた手法に疑問を差し挟み、1200℃で熱せられた遺骨は残存DNAを残すことはできないと主張したという。また、北朝鮮の声明は5つの試料を扱った東京の科学警察研究所はDNAを抽出することができなかったのに、なぜ帝京大学はそれが可能だったのかと質した。
・サンプルの残存
日本の法医学専門家である帝京大学の吉井富夫は、彼がどうにか5つの試料全てからDNAを採取することができたことには幾つかの理由があるのだと語る。これらには彼が通常の一回のみDNAを増幅する手法の代わりに2回DNAを増幅するネスティッドPCR(*PCR=ポリメラーゼ連鎖反応)と呼ばれる高選択的な調査法を使用したことや、(帝京大学)独自のサンプルが他の研究所のものに比べて良質のものであったという可能性が含まれる。彼はDNAサンプルの扱い方について「誰でも自分自身の検査方法を持っている」と言及した。「(DNAの検査方法について)標準化された手法というものは無い。」
日本では法医学的な分析が火葬された試料に対して行われたことが殆どなく、吉井を含む大半の専門家はDNAが1200℃の火葬の中で残存しているということはあり得ないことだと考えていた。吉井は「私は本当に驚いた」と言った。もし短時間の間だけそのような温度に晒されていた状態ならばDNAは残存することができる。信州大学の法医学専門家の福島弘文は「温度からだけでは何も語ることはできない」と語る。
それでもなお、かつて火葬された試料を扱った経験は無い吉井は彼の検査が最終的なものでは無く、サンプルが汚染された可能性があることを認めている。「骨は何でも吸収する堅いスポンジのようなものだ。もし骨を扱った人物の汗や皮脂が吸い込まれれば、どんなに十分に準備されてもそれらを取り除くことは不可能だろう。」
高島は、北朝鮮が過去に誘拐したものであるとする人物の遺骨を送るものの、後にそれが別人のものであることを認めたことがあると語る。
日本政府は1月26日、北朝鮮の状況への対応が「遺憾である」としてこの出来事に反応した。高島によると、「厳しい対応」は12万5000トンの食糧支援の中止やその他経済制裁を含むかもしれないと威嚇したという。
また、日本の政府関係者は彼らは問題のDNAを再検査したと語る。しかし、吉井は5つのサンプル−もっとも大きなものでも僅か1.5グラム−は彼の検査で使い果たしたと語る。また、評論家たちは(日朝間の)見解の相違が解決される目処は殆どないままであると語る。
・DNA
is burning issue as Japan and Korea clash over kidnaps(原文) http://www.asyura2.com/0502/war67/msg/168.html
*記者:David
Cyranoski
アジア太平洋特派員・東京 <概訳:まこと>
Davidは2000年に「Nature」でジャーナリズムに転職する前、日本で数年の間働いていた。彼の様々な職歴には半導体製造設備会社での翻訳や外国人交換留学生への歴史の教育が含まれる。Davidはアジア太平洋地域の情報をカバーすることに加え、彼の関心事にはマテリアルや地球科学、知的財産も含まれる。彼はカリフォルニア大学バークレー校で日本の遺伝学の歴史における彼の博士課程を修了するために1年の有給休暇を取得するという夢を抱き、また、いま標準中国語を勉強中である。
****************************** II. ネイチャー3月17日号論説
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政治対真実 (翻訳修正版)
日本の政治家たちは、それがどれだけ不愉快であろうとも、科学的不確定性を直視しなければならない。彼らは北朝鮮との論争において外交的手段を用いるべきであり、科学的整合性を犠牲にすべきではない。
日本の内閣総理大臣 小泉純一郎氏は、日本のある大衆週刊誌によれば、先月のネイチャーのニュース記事のためフラストレーションで頭を抱え込んでいる。
1977年に13歳で北朝鮮に拉致された横田めぐみさんがまだ生きているかどうかが争われている。2002年、北朝鮮は13人の日本人を拉致したこと、彼らの幾人かを海岸から連れさったことを認めた。それ以後、北朝鮮の拉致被害者に関する情報提供の不熱心さが両国間の紛糾を招いている。(ネイチャー2005年433巻、445頁参照)
横田さんを含む拉致被害者の殆どが死んだという主張は信じ難い。北朝鮮は昨年日本に送った遺骨は彼女のものだと言っている。しかし日本の鑑定はDNAは誰か別人のものだということを示し、北朝鮮軍は彼女をまだスパイ育成のため使っているのではないかという疑惑を生んでいる。
日本が北朝鮮のすべての声明を疑うことは正しい。 しかしDNA鑑定の解釈は科学の政治干渉からの自由の限界を踏み外している。鑑定を行った科学者へのネイチャーのインタビューは、遺骨が汚染されていて、当該DNA鑑定を結論の出せないものにしている可能性を提起したものである。
この提言は北朝鮮が欺瞞の権化と映って欲しい日本の政治家にとって快いものではなかった。
日本政府はこの記事に対し鋭敏に反応した。伝えられるところによると、内閣官房長官細田博之氏は記者会見において、ネイチャーの記事は“不適当な表現”を含んでおり、科学者の発言を誤って書いていると主張した。細田氏は記事のなかの意見は“一般論”であって、当該ケースについて述べたものではないと語り、このことは科学者にも確認していると付け加えた。 一方、その科学者自身は、見るところ、もはやインタビューにも応じられない状況にある。
遺骨は汚染されていたかもしれないということは避けようのない事実である。この悲惨な出来事中に、骨がどんな経路を辿ったかを誰が知り得ようか。北朝鮮によれば、遺体は発掘前、2年間埋められ、1200℃で火葬され、その後、小サンプルが日本に送られる以前、女性の夫の家に保管されていた。北朝鮮がうそをついている可能性は大いにありうる。しかし日本が期待するDNA鑑定がこの問題を解決することはない。
問題は科学にあるのではなく、政府が科学の問題に干渉していることにある。科学は、実験、およびそこから生じるすべての不確定性が精査に開放されるべきだという前提の上に成り立つ。鑑定はもっと大きなチームでなされるべきだという他の日本人科学者の主張は説得力をもつ。日本はなぜ一人で研究している一科学者に鑑定を委ねたのか。そして彼はもはや鑑定について語る自由さえ失っているかに見える。
日本の政策は外交的失敗―より正確には、日米安保体制の失敗―の穴埋めのための必死の努力のように見える。安保体制は日本の安全及び極東における国際平和と安全の維持と引き換えに不人気な基地を日本におく権利を合州国に与えるものである。
日本はUSの支持のもと、北朝鮮に対して別のレバーをひくことができたであろうか。答えは明確ではない。しかし別の問い方もできる。 もしもある全体主義国家がスパイ候補に25年間言葉を教えるために、US市民を海岸から拉致し連れ去ったとしたら、ジョージ・ブッシュあるいは他のUS大統領はDNA鑑定結果で言い争いつつ、遺灰の袋をもってそこにたたずんでいるであろうか。
日本の政治的、外交的失敗のつけの一部が、科学者にまわされようとしている。実験から結論を導き、実験に関する合理的な疑問を呈することを仕事とする科学者に。しかし、北朝鮮と日本の間の紛糾はDNA鑑定では解決されないであろう。同様に、DNA鑑定結果の解釈は両国どちらの政府によっても決着がつかないであろう。北朝鮮と交渉することは確かに面白くない、しかしそのことは科学と政治の分離のルールを破ることを正当化するものではない。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 翻訳 野田隆三郎
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III. ネイチャー4月6日号
********************** 転職は日本の拉致調査を阻害する デイビッド
シラノスキー
遺伝学者の新たなポストはDNA鑑定に関する彼の証言を阻む恐れ北朝鮮に拉致された日本人の運命に関する騒動に再度、火をつけた一人の遺伝学者が、そのほんの数週間後に、警視庁の要職に就いた。
しかし批評家たちは吉井富夫氏の帝京大学から警視庁科学捜査研究所長への転進は彼のDNA鑑定の精度に関する問い合わせから彼を守るために計画されたと主張している。野党民主党の首藤信彦議員は3月30日の議会における町村外務大臣との激しいやりとりのなかで、政府が吉井氏を新地位に移すよう影響力を行使したことをほのめかした。
日本政府は吉井氏のDNA分析は、昨年北朝鮮から提供された火葬遺骨が1977年に拉致された横田めぐみさんとは別人のものであることを疑いもなく証明していると主張した。日本は横田さん、そして拉致されたとされる他の数名の消息の詳細を求めてきた。
しかし吉井氏はネイチャーとのインタビューにおいて彼の結果がコンタミ(汚染)の結果でありうることを認めた。(ネイチャー433号445ページ2005年参照)日本政府高官は、吉井氏は自らの発言が誤って引用されたと言っていると主張し、ネイチャー記事に反論した。以後、オーストラリアのドキュメンタリーフィルムメーカー、韓国の放送局、また他のリポーターが吉井氏にインタービューを試みたが成功していない。
首藤氏は吉井氏にこの件に関し、衆議院外務委員会で証言して欲しいと言っている。しかし吉井氏の警察の新地位においては、彼の雇用主が同意しないかぎり出席できないことになっており、その調整が妨害として使われていると首藤氏は言っている。3月30日の議論のなかで首藤氏は町村氏に、一民間人のおよそ警察的な訓練を受けていない人が突然、警視庁の高い地位に就くというのは「驚き」だと語った。彼は「これは証人隠しではないのか」と尋ねた。
遺骨からはDNAは検出できなかったという、千葉の科学警察研究所の正反対の報告にもかかわらず、政府は吉井氏の結果を断定的なものとして受け止めた。
首藤氏は町村氏に「巨大な研究機関の言葉を越えて、一私立大学の一研究者の言葉を受け入れるというのであれば、そのような研究機関は廃止してしまうべきではないのか」と迫った。町村氏は首藤氏の質問を“侮辱”と呼び、内閣は真剣に調査に取り組んできたと述べた。彼は「私どもは予め決まった結論を出そうとしたのではない、委員はもっと慎重に言葉を選んで欲しい」と抗議した。
首藤氏はなお吉井氏を証言に喚問することを計画している、そしてなぜ政府が吉井氏の結果をそれほど尊重するのか、その真相に迫ると首藤氏は言っている。彼は「もしも日本がこの方向に進み続けるなら、日本の科学の評価は根底からつき崩される」と警告している。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翻訳 野田隆三郎
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