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このところ忙しくて、ネットの議論に参加できない状態が続いているのですが、この間、慰安婦問題があちこちで再燃しているようです。 そこで、この問題についての論点整理も兼ねて、1年以上前の私の投稿に対する七生報国さんのレスに対して、返信を書かせていただきます。
七生報国さん、今頃ですみません。
▼七生報国さん: >売春婦として占領地に赴いた人にはそれぞれまさしく千差万別な事情があったはずなのにひとくくりにして、所謂「従軍慰安婦」肯定派否定派議論している点で不毛かつ水掛け論に終始する気がします。
さて、上記についてですが、先ず
>売春婦として占領地に赴いた人
というのは「従軍慰安婦」ないしは「慰安婦」の定義として正しくありません。 「従軍慰安婦」あるいは「慰安婦」とは「軍慰安所従業婦」のことです。即ち、軍慰安所において売春に従事する女性のことを言います。 占領地における売春婦一般を「従軍慰安婦」と呼ぶこともなければ、「慰安婦」と呼ぶこともありません。「従軍慰安婦」「慰安婦」も売春婦に含まれることは間違いありませんが、軍慰安所における売春婦であるという点において、他の売春婦と異なる、特殊の売春婦です。
次に
>売春婦として占領地に赴いた人
という言い方には「自発的意思で戦地へ行き、売春を行った」というニュアンスがありますが、もし七生報国さんがそのような認識だとすれば、それは明らかな誤りです。慰安婦のほとんどは自発的意思ではなく強制によって戦地へ行かされ、売春に従事させられていたのです。 また、
>それぞれまさしく千差万別な事情があったはず
についても、もし「自由意思で慰安婦になった場合もあれば、強制されて慰安婦になった場合もある」という意味で「千差万別な事情があった」と仰っているだとすれば、それも明らかな誤りです。自由意思で慰安婦になったというのは例外的なケースに過ぎず、ほとんどは強制されて慰安婦となり、売春を強要されていたのです。(その「強制」の内容について「千差万別な事情があった」という意味だとすれば、それは誤りではありませんが。)
そして、この「自由売春だったか、強制売春だったか」というのは従軍慰安婦問題の基本的論点の一つだと言われていますが、実は肯定派否定派で基本的に対立はないのです。 つまり、河野談話撤回を叫んでいる自民党・民主党の極右政治家、自由主義史観論者、産経新聞、ネット右翼の大半などを含む、全ての立場の論者が「強制売春だった」ことを実質的には認めてしまっているので、決着済みの問題なのです。
例えば、この問題でよく聞く否定派の言説を思いつくまま、列挙してみます。
(1)従軍慰安婦は公娼制度の延長に過ぎない。 (2)ほとんどの慰安婦は親から売られたのだ。 (3)朝鮮人の女衒が騙していた。 (4)借金を返せば解放された。 (5)植民地の未成年者の女性に売春させることは当時の国際法に違反しない。 (6)従軍慰安婦は単なる商行為だったに過ぎない。 (7)慰安婦は良い暮らしをしていた。またたくまに借金を返し、故郷に家を建てた者までいる。 (8)当時、売春は合法だった。 (9)どこの軍隊も慰安所を設置していたし、慰安婦はいた。
これらの言説のうち、(1)と(9)は明らかな誤りであるし、(5)は国際法の解釈によりますが私は誤りだと思っています。(4)と(7)も、実態はそうではありませんでした。 けれども、「自由売春だったか、強制売春だったか」という論点に照らしてみると、上記(1)〜(4)は、強制売春だったことを既に認めている内容です。また、(5)〜(9)は、「自由売春だったか、強制売春だったか」とは別の論点についての話であり、従って、(5)〜(9)をいくら論証したところで、自由売春だったことを証明することにも、強制売春を否定することにもならないのです。
こうなると、「その強制の主体は誰だったのか」「強制の主体は軍か、民間業者か」という問題に論点が移ることになります。 報道によると、自民党の極右議員のグループは「軍、国家がやったんではない。業者がやったんだ」と説明するために訪米を計画していることからも(結局、訪米は中止になったようですが)、強制売春だったことを前提とした上で、その主体が誰であったのかが、この問題での今日の最大の争点ということになるようです。
ところが、この問題については、まさに当時の公文書などによって決着がつくのです。
つまり、「公文書による裏づけがない。だから事実ではない」という否定派の反論は、少なくともこの問題では成立しえないのです。
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