|
この思考錯誤掲示板は、歴史問題の議論が中心なのですが、歴史問題以外で最近、私が重大だと思っっている問題について、ちょっと投稿させていただきます。
12月6日の朝日新聞の報道によると、政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・草刈隆郎日本郵船会長)が今月末まとめる最終答申の原案が明らかとなり、その中で「労働組合の団体交渉権を一定割合以上の従業員を組織する組合に限定することを検討する」としているそうです。
現行の労働組合法では、どんなに少数の組合員しかいなくても(たとえ、その企業の従業員が一人しか加入していなくても)、労働組合である以上、使用者は正当な理由がなければ団体交渉を拒否できません。 また、同一企業に複数の組合が併存している場合、使用者には平等取扱い義務がありますので、使用者は(多数組合であれ少数組合であれ)それぞれの組合と誠実に団体交渉を行わなければなりません。例えば、組合員1000人の組合と組合員一人の組合が同一企業にある場合でも、組合員1000人の組合との妥結を組合員一人の組合に押し付けることなどはできません。組合員一人の組合とも、組合員1000人の組合との団体交渉と無関係に団体交渉を行わなければなりません。組合事務所貸与などの便宜供与を組合員1000人の組合だけに認めることなどは差別的取扱いとして違法になります。組合員1000人の組合に組合事務所を貸与しているのなら、組合員一人の組合にも(スペースはともかく)組合事務所を貸与しなければなりません。 違反すれば不当労働行為として禁錮を含む制裁が科せられます。
このことは、現在、不当なリストラ・解雇に対する大きな歯止めになっています。 例えば、ある会社がある従業員を解雇した場合、その会社に労働組合がなくても、その従業員が地域の合同労組あるいは産別に加入すると、その合同労組や産別は「組合員の労働条件に関する事項」だとして、交渉せよと会社にやってきます。たった一人でも合同労組や産別に加入すれば、その合同労組や産別と交渉しなければなりません。もちろん、正社員、非正社員は関係ありません。 従業員を10人解雇し、その内の9人が泣き寝入りしたとしても、一人が合同労組や産別に加入すれば、その合同労組や産別と交渉しなければならなくなります。 交渉を拒否すれば直ちに違法となります。 また、会社に労使協調的で御用組合化した組合があり、その組合といくら合意していたとしても、当該従業員が合同労組や産別に加入した場合は、御用組合との合意とは無関係にその合同労組や産別と交渉しなければなりません。 このような危険があるため、使用者はリストラや解雇に対して慎重にならざるを得なくなっています。
それを「一定割合以上の従業員を組織する組合に団体交渉権を限定」したら、どういうことになるでしょうか? 不当なリストラ・解雇に対する歯止めがなくなります。大失業時代の到来ということになるでしょう。
細かく言えば、憲法上の団体交渉権は労働者一人一人に認められているため、憲法を変えない限り、少数組合も憲法上の団体交渉権は認められます。 しかし、労組法による保護(団交拒否に対する行政による救済)が受けられなければ、影響は甚大です。現行では団交拒否に対しては労働委員会に不当労働行為救済を申し立てるのが一般的です。それが、少数組合は労働委員会による救済が受けられないことになれば、憲法28条に基づき、裁判所に、団体交渉を求める地位の確認請求、あるいは団体交渉を求める地位を仮に定める仮処分申請、というのが多用されることになるでしょう。 けれども、この場合だと、裁判所が請求を認容したとしても履行は任意となるため、実効性がないことになります。あとは不法行為による慰謝料請求ぐらいしかありません。 また、裁判所は権利義務の存否を判断する機関であるため、使用者が団体交渉そのものを拒否している場合には団体交渉を求める地位の確認や団体交渉を求める地位を仮に定める仮処分も可能ですが、使用者が形式的な交渉のみを行うだけで実質的な交渉を行わないという不誠実団交の場合にはこの方法は使えないということになります(慰謝料請求のみ可能)。 現行では不誠実団交も不当労働行為を構成するとして、労働委員会による救済が可能ですし、この場合は裁判所ではなく労働委員会による救済こそなじむとされています。それなのに、少数組合が労働委員会を使えないということになれば、不誠実団交が横行することになり、結局、不当にリストラ・解雇された労働者は今以上に泣き寝入りとなるでしょう。
| |