「百人斬り」東京地裁判決(部分-059)

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《裁判所判断:社会的評価の低下を招く事実の摘示だから、違法性検討の対象となる》
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        以上を前提として,まず,本件各書籍において,死者が生前に有していた社会的評価の低下にかかわる摘示事実又は論評がなされているか否かについて検討するに,本件各書籍のうち,「中国の旅」文庫本の第24刷以降のもの,「南京への道」文庫本の第6刷以降のもの及び「本多勝一集 第23巻 南京への道の第2刷以降のものは,両少尉について,いずれも匿名で表記しているとはいえ,「M」「N」が本件日日記事において「百人斬り競争」を行ったと報じられていたこと及び南京裁判で死刑に処せられたことを具体的に摘示しており,本件日日記事に掲載され,南京裁判で処刑された「M」「N」は両少尉以外にいないものとみられるから,この程度の記載であっても,両少尉を十分特定し得るものと認められる。

        そして,前記認定事実によれば,本件書籍一ないし三《「中国の旅」,「南京への道」,「南京大虐殺否定論13のウソ」》においては,いずれも,婉曲的な表現や,基礎事実からの推論の形式による論者の個人的な一見解の体裁を採りつつも,結論的に,両少尉が,上官から,100人の中国人を先に殺した方に賞を出すという殺人ゲームをけしかけられ,「百人斬り」「百五十人斬り」という殺人競争として実行に移し,捕虜兵を中心とした多数の中国人をいわゆる「据えもの斬り」にするなどして殺害し,その結果,南京裁判において死刑に処せられたといった事実の摘示がなされている(以下,当該事実の摘示を「本件事実摘示」という。)と認められるところ,両少尉が,「百人斬り」と称される殺人競争において,捕虜兵を中心とした多数の中国人をいわゆる「据えもの斬り」にするなどして殺害したとの事実(以下「本件摘示事実」という。)は,いかに戦争中に行われた行為であるとはいえ,両少尉が戦闘行為を超えた残虐な行為を行った人物であるとの印象を与えるものであり,両少尉の社会的評価を低下させる重大な事実であるといえる。

        また,「南京への道」のうち,番号二の2,同二の3の記事(*)を掲載したもの及び「南京大虐殺否定論13のウソ」においては,両少尉が,前記「百人斬り」競争に関し,その遺書等において,向井少尉が「野田君が,新聞記者に言ったことが記事になり」と記載しているのに対し,野田少尉が「向井君の冗談から百人斬り競争の記事が出て」と記載して,互いに相反する事実を述べていることに対し,「一種なすり合いをしている。」として責任のなすり合いをしている旨の論評(以下「本件論評」という。)をしているが,両少尉が死刑に処せられるに当たり,その遺書等において,互いに責任のなすり合いをしたか否かという点は,両少尉の社会的評価を低下させるものであるといえる。

        もっとも,本件各書籍は,両少尉の死後少なくとも20年以上経過した後に発行されたものであり,問題とされる本件摘示事実及び本件論評の内容は,既に,日中戦争時における日本兵による中国人に対する虐殺行為の存否といった歴史的事実に関するものであると評価されるべきものであるから,当該表現行為の違法性については,前記アで述べた基準に従って,慎重に判断すべきであるといえる。

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